法人版・事業承継税制 適用には令和6年12月末までに役員就任が必須
2024.09.26
はじめに
法人版の「事業承継税制の特例措置」の適用を検討中であれば、令和6年(2024年)12月末までに済ませておかなければならないことがあるので注意が必要だ。令和6年度税制改正で、同特例に当たって必要となる特例承継計画の提出期限が令和8年3月31日まで2年延長されたが、株式等の贈与の場合、令和6年12月末までに後継者が役員に就任している必要があるためだ。同特例は令和6年度税制改正大綱でも延長しない旨が盛り込まれているため、手続きには十分に注意しておく必要がある。
1.税制改正でも「特例延長」はなし
法人版「事業承継税制の特例措置」とは、後継者である受贈者・相続人が、円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式などを贈与または相続により取得した場合において適用されるもの。適用されると、その非上場株式などの贈与税や相続税が猶予され、最終的にその後継者の死亡によって猶予されていた贈与税・相続税の納付が免除される。
平成30年度税制改正では、法人版事業承継税制について、従前の措置に加え、10年間の措置として、納税猶予の対象となる非上場株式等の制限(総株式数の3分の2まで)の撤廃や、納税猶予割合の引上げ(80%から100%)等の特例措置が設けられた。
延長された措置の適用期限は令和9年12月末まで。残り3年超(2024/9/26現在)となったわけだが、まず注意したいのが同特例の適用を受けるためには、役員就任要件を満たしている必要があること。贈与においては、令和9年12月31日までに後継者は役員就任後3年を経過していることが要件(相続の場合は直前に役員でも可)とされる。つまり、贈与の場合は令和6年12月末までに後継者が役員に就任している必要がある。
2.後継者は対象会社の役員就任後「3年」を超えていること
同特例を利用する場合、一般的には贈与を計画することが多いため、改めて贈与の場合の流れを紹介する。
前述した通り、贈与の場合は、贈与日まで引き続き3年以上にわたり対象会社の役員であることが求められる。この「引き続き」に注意が必要で、贈与日まで3年間継続して対象会社の役員であることとされる。同制度の適用期限は令和9年12月31日なので、令和6年12月31日までに後継者が対象会社の役員とならなければ、贈与承継で本制度の適用を受けることができないことになる。
例えば、後継者が、対象会社の役員を一時的に退き、他のグループ会社の役員になることが予定されている場合は注意が必要。他の会社との累積3年間では適用できないからだ。
また、組織再編を予定している場合も注意が必要。例えば、新たに持株会社を設ける予定があるのなら、令和6年12月31日までに後継者がその新会社の役員であることが必要なので、令和6年中に組織再編を終えるか、組織再編の前に本制度適用の贈与を行う(その後、再編をしても猶予継続見込)か、検討する必要がある。
それでは、同特例の適用を受けるための会社の主な要件についてまとめておく。
以下に該当すると適用できない。
- 1、上場会社
- 2、中小企業者に該当しない会社
- 3、風俗営業会社
- 4、資産管理会社(一定の要件を満たすものを除く)
また、後継者である受贈者の主な要件は以下の通りだ。
- (1)贈与の時において、会社の代表権を有していること
- (2)贈与の日において18歳以上であること
- (3)贈与の日まで引き続き3年以上を会社の役員であること
- (4)贈与の時において、後継者及び後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有することになること
- (5)贈与の時において後継者の有する議決権数が次のイまたはロに該当すること
- イ.後継者が1人の場合=後継者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
- ロ.後継者が2人または3人の場合=総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、かつ、後継者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
(特例措置)
さらに先代経営者等である贈与者の主な要件については以下の通り。
- (1)会社の代表権を有していたこと
- (2)贈与の直前において贈与者及び贈与者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと
- (3)贈与の時において、会社の代表権を有していないこと
なお、担保提供については、納税が猶予される贈与税額および利子税の額に見合う担保を 税務署に提供する必要がある。
法人版の「事業承継税制の特例措置」は、期限つきながら税制的には極めて有利なもの。前述した適用要件に注意しながら手続きを進めていきたい。