11月1日にフリーランス保護法が施行 税理士も個人で従業員ナシなら「特定受託事業者」
2024.07.30
はじめに
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」いわゆる「フリーランス保護法」の関係政令等が2024年5月31日に交付され、同年11月1日から同法が施行される。注目は、税理士を含む「士業」も個人で"従業員ナシ"なら「特定受託事業者」に含まれるとされていることだ。そこで、特定受託事業者とはどういったものを指すのか、含まれると何が護られるのかについて解説する。
1.特定業務委託事業者にハラスメント対策を義務付け
2024年11月1日から施行される「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下:「フリーランス保護法」)における「特定受託事業者」とは、業務委託を受けるもので、従業員を雇用しない個人・一人会社を指す。フリーランス保護法は、特定受託事業者に対して業務を発注する事業者を「特定業務委託事業者」と定め、業務委託に係る取引の適正化及び就業環境を整備するもの。
「特定業務委託事業者」は、取引条件の明示、給付を受領した日から原則60日以内での報酬を支払い、ハラスメント対策のための体制整備等が義務付けられる。
具体的には、
- (1)特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額等を書面又は電磁的方法により明示しなければならないものとする。
※従業員を使用していない事業者が特定受託事業者に対し業務委託を行うときについても同様とする。 - (2)特定受託事業者の給付を受領した日から60日以内の報酬支払期日を設定し、支払わなければならないものとする。(再委託の場合には、発注元から支払いを受ける期日から30日以内)
- (3)特定受託事業者との業務委託(政令で定める期間以上のもの)に関し、①~⑤の行為をしてはならないものとし、⑥・⑦の行為によって特定受託事業者の利益を不当に害してはならないものとする。
- ① 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
- ② 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
- ③ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
- ④ 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
- ⑤ 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
- ⑥ 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
- ⑦ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること
なお、法の取引の適正化に係る規定については主に公正取引委員会及び中小企業庁が、就業環境の整備に係る規定については主に厚生労働省がそれぞれ執行を担う。
2.紹介予定派遣で派遣労働者を使用している場合は注意
特定受託事業者に税理士や公認会計士、弁護士などの「士業」が含まれるのかについては、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等 に対する意見の概要及びそれに対する考え方の中で、特定受託事業者に業種の限定はないので、個人で開業しており、従業員を雇わなければ士業等であったとしても、業務委託の相手方である事業者になるとしている。
フリーランス保護法には、
- ①個人であって、従業員を使用しないもの
- ②法人であって、一の代表者以外に理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者など他の役員がなく、かつ、従業員を雇わないもの
いずれかに該当するものを特定受託事業者と定めている。
1-2-23 | 解釈ガイドライン第1部1⑴ | 「特定受託事業者」には、弁護士が含まれるか否かについては、当該弁護士が事務員として従業員(非同居親族)を雇用している場合には、特定受託事業者に該当しないとの理解でよいか。 | 「特定受託事業者」には業種の限定は無く、士業等であったとしても、業務委託の相手方である事業者であって、①個人であって、従業員を使用しないもの、②法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいいます。)がなく、かつ、従業員を使用しないもののいずれかに該当するものであれば、「特定受託事業者」となります。なお、事業に同居親族のみを使用している場合には、「従業員を使用」に該当しません(解釈ガイドライン第1部1⑴参照)。 |
1-2-24 | 解釈ガイドライン第1部1 | 弁護士、社労士、司法書士等の「士業」は特定受託事業者に該当するのでしょうか。例えば、企業が司法書士(従業員なし)に変更登記手続を委任する場合等のケースを想定しています。 | |
1-2-25 | 解釈ガイドライン第1部1 | 法律事務所において、法律事務所を経営している弁護士(いわゆるボス弁、パートナー弁護士)が、業務委託の形で弁護士(いわゆるイソ弁、アソシエイト弁護士)を事務所に所属させる通例である。現行法下においては、下請法が適用されないという整理の元、業務委託契約について契約書など、書面が作成されていない事例が多数存在する。 このような事態を是正するために本法の適用は極めて重要と思われるため、業務委託を受けて法律事務所に所属する弁護士が特定受託事業者に該当することを確認したい。 |
参考:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に対する意見の概要及びそれに対する考え方 別紙2
同法の「従業員を使用」については、週所定労働時間が20時間以上、かつ継続して31日以上の雇用が見込まれる労働者(労働基準法9条に規定する労働者)を雇用することとしている。
ただ、紹介予定派遣の派遣先として「1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ継続して31日以上雇用されていることが見込まれる派遣労働者を受け入れる場合には、同派遣労働者を雇用してないものの、従業員を使用していることとなる。一方で青色専従者など同居の親族のみを使用している場合には該当しないとしている。
最後に、フリーランサーから違反行為の報告があった場合、最初に国が調査を行うことになる。調査で、発注者がルールを破っていると認めたら、国は発注者に改善勧告を行い、それでも勧告を無視したら命令となり、国はその企業の名前と命令の内容などを公表する。それでも命令を無視したときには罰則対象となる。ただ、調査段階でも、調査対象企業が嘘の報告をする、調査を邪魔するなどした場合も罰則対象となる。罰金は50万円以下、あるいは20万円以下となっており、違反行為をした本人だけでなく、その企業や個人経営者も罰せられる。
ただし、申出の内容に応じ、必要な調査(報告徴収・立入検査)を行い、申出の内容が事実である場合、本法律の規定に則って、指導・助言のほか、勧告を行い、勧告に従わない場合には、命令が出されて公表されることになる。