令和6年度税制改正 セーフティ共済の掛金の損金算入に制限
2024.02.27
はじめに
取引先が倒産した際に、自社の連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための "いざ"というときの備えとして活用されている「中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)」。掛金は、全額損金計上できるほか、解約の仕方によっては、決算対策等で利用されるため、節税商品としての利用も少なくない。この経営セーフティ共済の節税対策が、令和6年度税制改正で一部封印される。どういったメスが入るのか解説する。
1.取引先のいざというときの備え
中小企業基盤整備機構(基盤機構)が運営する中小企業倒産防止共済、いわゆる「経営セーフティ共済」は、掛金を払うことで、取引先の倒産時にその掛金の最高10倍(上限8千万円)まで、無担保・無保証人で借りられる制度。この貸付は無利息で、貸付けを受けた共済金の額の 10 分の1に相当する額が、納付した掛金から控除され、その掛金の権利は消滅する。償還期間および償還方法は、貸付額に応じて次表の通り。
貸付金 | 償還期間 (6カ月の据置期間を含む) |
償還方法 |
---|---|---|
5,000万円未満 | 5年 | 54回均等分割償還 |
5,000万円以上 6,500万円未満 |
6年 | 66回均等分割償還 |
6,500万円以上 8,000万円以下 |
7年 | 78回均等分割償還 |
※共済金の償還は、共済金の貸付請求手続きをする際に「償還金預金口座振替払に関する申出書」(様式㊥303)により指定した金融機関からの預金口座振替によりおこなっていただきます。なお、共済金貸付契約により、原則として償還金振替口座の変更はできません。
(参考:共済サポートnavi 経営セーフティ共済 様式一覧|パンフレットより)
共済金の借入れは、取引先企業が倒産し、売掛金債権の回収ができなくなったことが確認できればすぐに受けられる。
共済金の借入れが受けられる取引先の倒産の範囲は、
- ・法的整理
- ・私的整理
- ・取引停止処分
- ・でんさいネットの取引停止処分
- ・災害による不渡り
- ・災害によるでんさいの支払不能
- ・特定非常災害による支払不能
2.経営セーフティ共済に加入できる中小企業の範囲
経営セーフティ共済には、個人事業の事業主または、中小企業者等が加入できる。具体的には、株式会社、有限会社、合名会社、士業法人、合資会社、合同会社などで、医療法人や農事協同組合、NPO法人、外国法人、加入できる個人事業主の要件は、継続して1年以上事業を継続していること。常時使用する従業員の数が要件を満たしている。事業所得(不動産所得)を得ていることにより確定申告をしている。雇用契約以外の契約によって他者の事業に従属する形で(継続的な請負や納入をする業者、代理店など)個人で独立経営をしていることが挙げられる。
「常時使用する従業員数」とは、原則として2カ月を超えて雇用される従業員であり、かつ、週当たりの所定労働時間がその企業の通常の従業員とおおむね同等であること。更に、「事業主」「事業主の家族従業員」「雇用期間が2カ月以下(アルバイト等)」は除く。
加入できる方は、以下①~③の条件に該当する中小事業者で、引き続き1年以上事業をおこなっている方である。
①個人の事業主または会社で以下表の「資本金の額または出資の総額」または「従業員数」のいずれかに該当する方
業種 | 資本金の額 または出資の総額 |
従業員数 |
---|---|---|
製造業、建設業、運輸業、 その他の業種 |
3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
ゴム製品製造業 (自動車または航空機用タイヤ及びチューブ製造業ならびに工業用ベルト製造業を除く) |
3億円以下 | 900人以下 |
ソフトウェア業 または情報処理サービス業 |
3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
②企業組合、協業組合
③事業協同組合、商工組合等で、共同生産、共同販売等の共同事業をおこなっている組合
(参考:共済サポートnavi 経営セーフティ共済 様式一覧|パンフレットより)
ほぼ多くの中小企業が当てはまり、同機構によれば、現在約62万の企業や事業者等が加入し、共済金の貸付け実績は、累計で約27万件、約1兆9千億円となっている(令和5年3月末現在)。
3.掛金は全額損金計上OK
この掛金だが、全額損金計上できるほか、途中解約しても解約返戻金を受け取れる。
掛金は、毎月5千円から20万円の範囲内で、総額800万円になるまで払い込むことができ、任意解約の返戻率については40カ月以上掛けていると100%の戻りとなる。
具体的に任意解約の返戻金は、11カ月以下だとゼロだが、12カ月から23カ月は80%、24カ月から29カ月で85%、30カ月から35カ月で90%、36カ月から39カ月で95%となっている。
4.令和6年度税制改正により節税封じ
この経営セーフティ共済だが、令和6年度税制改正により、任意解約してから2年間、再加入しても掛金を損金算入できなくなる。現状では、解約した後、同年度内に再契約し、1年分の掛金を前納しても全額損金計上できる状況にある。そのため、前納すれば、1年間の掛金を最大240万円(= 20万円 × 12カ月)まで一括納付することが可能。そのため、利益が大きく税率が高い年度に掛金を多く支払って、利益が少なく税率が低い年度に解約返戻金を受け取ることで節税につなげられたわけだ。
こうした利用の仕方に国としては「本来の目的と違う利用の仕方」ということでメスを入れ、6年度税制改正大綱に「特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例における独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済事業に係る措置について、中小企業倒産防止共済法の共済契約の解除があった後、同法の共済契約を締結した場合には、その解除の日から同日以後2年を経過する日までの間に支出する当該共済契約に係る掛金については、本特例の適用ができないこととする(所得税についても同様とする)」とされた。
つまり、経営セーフティ共済を解約してから2年間は再加入しても、掛金が損金計上できなくなるため、入金額はそのまま利益として課税される。事実上の節税封じとなったわけで、適用は令和6年10月以降に解約されるものからだ。
利益が多くでた事業年度など、中小企業の決算対策でも活用されてきた経営セーフティ共済。若干、節税メリットは薄れるが、「掛金は全額損金計上OK」「取引先のいざというときの備え」という部分は、十分に魅力的な商品だ。賢く使って、会社経営に役立てていきたい。