国税庁 令和5年度税制改正で電帳法取扱通達改正に伴い一問一答を修正
2023.08.16
はじめに
令和5年度税制改正を受けて国税庁は2023年6月30日、電子帳簿保存法(電帳法)取扱通達を一部改正するとともに、電子帳簿保存法一問一答(Q&A)を修正した。
「電子取引データ」については、2023年12月末で宥恕措置が期限切れとなることから、税制改正により2024年1月から新たな猶予措置が設けられるが、適用には「相当の理由」が必要とされ、新通達では「相当の理由」の意義が示された。
また、「電子計算機を使用して作成する帳簿書類」については、過少申告加算税の軽減措置の対象となる「優良な電子帳簿」の対象帳簿の範囲が明確化された。
1.宥恕措置に代わる「新たな猶予措置」
令和5年度税制改正には、小規模事業者に対する電帳法の負担軽減措置が盛り込まれたが、その一つが2023年12月末で期限切れとなる「電子取引」の「電子データ保存(電磁的記録)」に関しての宥恕措置に代わる「新たな猶予措置」だ。
この新たな猶予措置の適用要件は、
- (1)所轄税務署長が「相当の理由がある」と認める場合(事前申請等は不要)
- (2)税務調査の際などにダウンロードの求めに応じることができる
- (3)税務調査等の際に電子データを出力した書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る)を提示・提出できる
というもの。
このうち、(1)の「相当の理由」については、「納税地等の所轄税務署長が当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存要件に従って保存をすることができなかったことについて相当の理由があると認めるとき(事前申請等は不要)」とされている。新通達では、「相当の理由」の意義や猶予措置適用時の取扱いが明確にされた。
2023年12月末で期限切れとなる「宥恕措置」と、2024年1月からの「新たな猶予措置」との違いは、宥恕措置は紙での保存を認めているが、新たな猶予措置では、基本的には電子取引データの保存が義務付けられ、「相当の理由」がある場合に、事業者の実情に応じて(2)(3)の条件をクリアすることで、「電子取引データを保存したことになる」とされている。
つまり、基本的には「電子データ保存」をしなくてはならないのだ。
2.「相当の理由」とは
「相当の理由」について、改正通達では、予算の都合やシステム等の配備ができない場合が該当するとしている。
この件について修正されたQ&Aに詳しくあり、「今回の猶予措置が、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存要件への対応が困難な事業者の実情に配意して設けられたものであり、例えば、その電子データそのものの保存は可能であるものの、保存要件に従って保存するためのシステム等や社内のワークフローの整備が間に合わない等といった、自己の責めに帰さないとは言い難いような事情も含めて、保存要件に従って電子データの保存を行うことが困難な事情がある場合を対象として措置されたもの」としており、保存時に満たすべき要件に従って保存できる環境が整うまでは、そうした保存時に満たすべき要件が不要となると記されている。
このほか、2023年12月末までの宥恕措置においては、最終的にシステム整備をする意向があることを税務調査時に口頭で回答できることが要件だったが、今回の新たな猶予措置においては、システム導入等で保存要件にしたがった保存を行うための準備をしているものの、未だ準備が終了していないことや、資金的な事情を含めた事業者の経営判断についても「相当の理由」に該当するとしている。
また、既に原則通り対応している事業者であっても、事業規模の大幅な変更などの事業実態の変化があり、資金繰りや人手不足等の理由があって要件に従って保存することができなかった場合は「要件に従って保存することができなかったことについて相当の理由がある」としている。一方で、社長の信条で、電子データ保存をしない場合は、「相当の理由」には該当しないことも示された。
さらに、改正通達では、前段(2)の「ダウンロードの求め」はすべてに応じた場合を指し、一部でも応じない場合には、猶予措置の適用は受けられないとも示している。
3.「優良な電子帳簿」の対象帳簿の範囲
「電子計算機を使用して作成する帳簿書類」についても、取扱通達が一部改正された。
過少申告加算税の軽減措置の対象となる「優良な電子帳簿」の対象帳簿の範囲について、現状は、「軽減措置の適用を受けようとする税目(所得税・法人税・消費税)に係る全ての帳簿を保存要件に従って保存する必要」とされている。
【所得税】
所得税法上の青色申告者が保存しなければならないこととされる仕訳帳、総勘定元帳その他必要な帳簿(所規58①、63①)。
【法人税】
法人税法上の青色申告法人が保存しなければならないこととされる仕訳帳、総勘定元帳その他必要な帳簿(法規54、59①)。
【消費税】
消費税法上の事業者が保存しなければならないこととされる帳簿。
- ・課税仕入れの税額の控除に係る帳簿(消法30⑦⑧一)
- ・特定課税仕入れの税額の控除に係る帳簿(消法30⑦⑧二)
- ・課税貨物の引取りの税額の控除に係る帳簿(消法30⑦⑧三)
- ・売上対価の返還等に係る帳簿(消法38②)
- ・特定課税仕入れの対価の返還等に係る帳簿 (消法38の2②)
- ・資産の譲渡等又は課税仕入れ若しくは課税貨物の保税地域からの引取りに関する事項に係る帳簿(消法58)
今回の改正通達では、申告所得税・法人税の優良な電子帳簿の対象範囲について、青色申告法人の場合は、仕訳帳、総勘定元帳「その他必要な帳簿」(全ての青色関係帳簿)を備え、別表21に定めるところにより、取引に関する事項を記載しなければならない(法規54、59①、所規58、63①)とされた。
具体的に、法人税の考え方としては、課税所得に直接結びつきやすい経理の誤りや、全体を是正しやすくするかどうかといった観点から、P/L科目は、課税標準や税額の計算に直接影響を及ぼすことを踏まえ、その科目に関する補助帳簿全てとされた。B/S科目については、P/L科目との関連性が強く、その科目の変動について把握する必要性が高い科目に関する補助帳簿に限定することになった。