インボイスQ&A改定 10月1日前後の買手、売手の計上時期の違いなどの取り扱い示す
2023.05.19
はじめに
国税庁は令和5年4月14日、消費税の適格請求書等保存制度(インボイス制度)の適用に関する詳細を記した「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」を改定した。新たに15問が追加され、25問で改定が行われている。
1.10月1日前後の取引について
追加された15問のうち、問38では、インボイス制度がスタートする令和5年10月1日前後において、売手における売上げの計上時期と買手における仕入れの計上時期が異なる場合、インボイスの保存の要否について説明。
問29~31までの3問では「少額な適格返還請求書(返還インボイス)の交付義務の免除」に関連するものについて説明。
問111~114までの4問が令和5年度税制改正で講じられた「小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置」、いわゆる「2割特例」についての処理などを説明している。
また、問38については、インボイス制度においては、適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)である売手は、国内において課税資産の譲渡等を行った場合、取引の相手方(課税事業者に限る)の求めに応じ、インボイスを交付する義務が課されている。課税事業者である買手は、仕入税額控除の要件として、原則として、課税仕入れ等に係る帳簿及びインボイス等の保存を要する。
これらについては、令和5年10月1日以後に売手が行う課税資産の譲渡等及び買手が行う課税仕入れについて適用される。この点、同じ取引であっても、売手における売上げの計上時期と、買手における仕入れの計上時期が必ずしも一致しない場合がある。例えば、機械装置の販売において、売手が出荷基準により令和5年9月に課税売上げを計上し、買手が検収基準により令和5年10月に課税仕入れを計上するといった場合だ。
この場合、売手においては、インボイス制度開始前の取引であることから、買手から取引におけるインボイスの交付を求められたとしても、この取引に係るインボイスの交付義務はない。そのため、買手においては、原則として、売手における課税売上げの計上時期が令和5年10月1日以後のものとなる取引から、仕入税額控除の適用を受けるためにインボイス等を保存する必要がある。そのためQ&Aでは、売手における課税売上げの計上時期が令和5年9月となる取引については、買手は区分記載請求書等保存方式により仕入税額控除の適用を受けることができると説明している。
2.返還インボイスの免除特例
返還インボイスについては、すべてのインボイス発行事業者が国内で行った課税資産の譲渡等につき、返品や値引き、割戻しなどの売上げに係る対価の返還等を行った場合には交付する義務があるとしている。しかし、令和5年度税制改正によりその金額が税込1万円未満なら、返還インボイスの交付義務を免除できることになった。
Q&Aでは、1万円未満の判定単位について、返還した金額や値引き等の対象となる請求や債権の単位ごとに減額した金額により判定するとしている。例えば、50万円の請求に対し、買手は振込手数料相当額440円減額した49万9,560円を支払ったとしたら、売手は440円を対価の返還等として処理するが、この場合は、1万円未満の対価返還等であり、適格返還請求書の交付義務は免除されるとしている。
一方で、40万円の請求に対して、1商品当たり100円、合計で2万円のリベートを後日支払った場合は、1万円以上の対価返還等であり、適格返還請求書の交付義務は免除されないとしている。
なお、この1万円未満の判定において、標準税率及び軽減税率が適用されたものが含まれている場合については、適用税率ごとの値引き等の金額により判定するのではなく、返還した金額や値引き等の対象となる請求や債権の単位ごとの減額金額により判定するとしている。
また、売手が負担する振込手数料相当額の経理処理については、売上の値引きとして処理する場合のほか、支払手数料として処理する場合があるが、支払手数料として経理処理をしていたものをインボイス制度の開始後に、売上値引きとして経理処理を変更することに問題と説明している。
支払手数料として経理処理をし、消費税法上は売上値引きとして処理することもできるが、この場合は、売手が買手に対して売上値引きを行った場合の適用税率は、対価の返還等のもととなる課税資産の譲渡等の適用税率に従うため、適用税率に応じた区分のほか、帳簿に対価の返還等に係る事項を記載する必要がある。この点、支払手数料のコードを売上げに係る対価の返還等と分かるように別に用意するといった、通常の支払手数料と判別できるように明らかにする対応が考えられると解説している。
3.追加された15問一覧
なお、参考までに追加された15問は以下の通り。
問22 当社は取引先が多いため、登録番号の有効性の確認を効率的に実施したいと考えています。どのような方法がありますか。
(少額な対価返還等に係る適格返還請求書の交付義務免除に係る1万円未満の判定単位)
問29 売上げに係る対価の返還等に係る税込金額が1万円未満である場合には、当該対価返還等に関し適格返還請求書を交付する義務が免除されるとのことですが、1万円未満の対価返還等とは、どのような単位となりますか。
問30 売手からの代金請求について、取引当事者の合意の下で買手が振込手数料相当額を請求金額から差し引いて支払うことで売手が負担する商慣行があります。この売手が負担する振込手数料相当額について、適格請求書等保存方式の開始後、売手が代金請求の際に既に適格請求書を交付している場合に、必要となる対応を教えてください。
問31 売手からの代金請求について、取引当事者の合意の下で買手が振込手数料相当額を請求金額から差し引いて支払うことで売手が当該振込手数料相当額を負担する場合について、当社は、当該負担額を支払手数料として経理処理していましたが、適格請求書等保存方式の開始後においては、売上げに係る対価の返還等として経理処理することを考えています。この場合、どのような対応が必要となりますか。
問38 適格請求書等保存方式の下では、仕入税額控除の適用を受けるためには、課税仕入れ等に係る帳簿及び適格請求書等の保存が原則として必要になるとのことですが、令和5年10月1日前後の取引において、売手における売上げの計上時期と買手における仕入れの計上時期が異なる場合、適格請求書等の保存の要否についてどのように考えればよいでしょうか。
問39 当社はシステム保守を業としています。この点、定期保守については、月額22,000円(税込み)であるところ、1年間分を保守開始前に相手方から支払ってもらうこととしており、当該代金請求時において請求書を交付しています。適格請求書等保存方式の下では、この請求書を適格請求書とする予定ですが、問題ありませんか。
問40 工事の請負に係る資産の譲渡等の時期の特例(工事進行基準)など、資産の譲渡等の時期の特例を適用した場合、適格請求書の交付義務はどのようになるでしょうか。
問71 適格請求書の記載事項である「軽減対象資産の譲渡等である旨」の記載方法について教えてください。
(所有権移転外ファイナンス・リース取引で賃借人が賃貸借処理した場合の適格請求書の保存)
問97 所有権移転外ファイナンス・リース取引については、リース資産の譲渡時に適格請求書の交付義務が生じるとのことですが、当該リース取引につき賃借人が賃貸借処理し、そのリース料について支払うべき日の属する課税期間における課税仕入れとして処理(分割控除)している場合、リース譲渡時に交付を受ける適格請求書の保存により仕入税額控除の適用を受けることができますか。
問108 一定規模以下の事業者は、1万円未満の課税仕入れについて、一定期間、適格請求書の保存を要しないとのことですが、その内容について教えてください。
(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置における1万円未満の判定単位)
問109 一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置(少額特例)については、1万円未満の課税仕入れが対象とのことですが、どのような単位となりますか。
問111 適格請求書等保存方式の開始後一定期間は、適格請求書発行事業者の登録により課税事業者となった免税事業者については、消費税の申告について簡易に計算できる経過措置(2割特例)があるそうですが、その内容について教えてください。
問112 小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)は、基準期間の課税売上高が1千万円を超える課税期間などについては適用できないとのことですが、具体的に教えてください。
問113 消費税課税事業者選択届出書の提出により納税義務の免除が制限されている場合であっても小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)の適用を受けられない場合があるとのことですが教えてください。
問114 小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)の適用を受けていましたが、翌課税期間から2割特例が適用できなくなるため、簡易課税制度の適用を受けたいのですが、いつまでに消費税簡易課税制度選択届出書を提出すればよいですか。