中小企業の残業代 2023年4月1日から60時間を超えたら50%割り増し
2023.04.28
はじめに
2023年4月1日から、中小企業も月60時間を超える残業の割増賃金率が50%となった。対応しないと法的に罰せられる可能性もあるため、業務の効率化を進めるなどして、時間外労働を減らす試みが必要となる。
1.大企業並みに引き上げられる時間外労働の割増賃金
労働基準法では、長時間労働の抑制などを目的に、社員の時間外労働に関して、通常の賃金に一定の割増賃金率を上乗せして支払うことになっている。1ヶ月の残業時間(1日8時間・1週40時間)が60時間以下であれば、大企業・中小企業ともに25%、60時間を超える場合は、2023年3月31日まで大企業が50%、中小企業は25%だった。
しかし、2023年4月1日からは、中小企業も50%に引き上げられた。60時間以下の残業の割増賃金率は、大企業・中小企業ともに25%で変わらない。(労働基準法第37条第1項ただし書が適用)
2023年3月31日まで | 2023年4月1日以降 | |||
---|---|---|---|---|
60時間以下 | 60時間超 | 60時間以下 | 60時間超 | |
大企業 | 25% | 50% | 25% | 50% |
中小企業 | 25% | 25% | 25% | 50% |
厚生労働省では、中小企業の線引きについて「資本金の額(または出資の総額)」「常時使用する労働者数」の2つの基準を設けており、いずれかを満たせば中小企業と判断される。
それぞれの規模は業種によっても異なり、「小売業」の場合は、資本金の額または出資の総額が5千万円以下、常時使用する労働者数が50人以下で中小企業と判断。サービス業は5千万円以下、100人以下が判断基準だ(詳細については以下の図表2を参考)。
業種 | 資本金の額または出資の総額 | 常時使用する労働者数 |
---|---|---|
小売業 | 5千万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5千万円以下 | 50人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
上記以外のその他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
2.深夜の時間外労働も対象
深夜(22:00~5:00)の時間帯に月60時間を超える時間外労働を行わせた場合には、「深夜割増賃金率25%」+「時間外割増賃金率50%」=75%で計算することになる。
1ヶ月60時間の時間外労働の算定には、法定休日に行った労働は含まず、それ以外の休日に行った時間外労働が含まれる。
法定休日は、使用者は1週間に1日または4週間に4回の休日を与えなければならない。法定休日に労働させた場合は35%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
週40時間勤務・土日休みの週休2日制で、日曜を法定休日としている場合、土曜に出勤した際には、法定時間外労働の割増賃金が適用される。例えば、休日出勤で深夜勤務になった際には、休日出勤分と深夜勤務分の比率を合わせての割増賃金が発生することになる。
ちなみに労働基準法の制限を超過する場合は、36協定の特別条項を結んでいたとしても、次の条件は必ずクリアしなければならない。
- ・時間外労働の合計は年間720時間以内
- ・時間外労働・休日出勤の合計は月100時間未満
- ・休日出勤の合計平均は2~6ヶ月のすべてで月80時間以内
- ・月45時間を超過した時間外労働は年間6ヵ月まで
これは努力義務ではなく必須であり、今までは大手企業にのみ課せられていたが、2023年4月1日からは中小企業にも適用される。
出典:「厚生労働省リーフレットより」
3.代替休暇制度導入には労使協定の締結が必要
月60時間を超える法定時間外労働を行った従業員の健康を確保するため、引き上げ分の割増賃金の支払の代わりに有給の休暇(代替休暇)を付与することができる。
この代替休暇制度を導入するには、以下の内容を定める労使協定の締結が必要だ。
- ①代替休暇の時間数の具体的な算定方法(換算率を何%にするかなど)
- ②代替休暇の単位
- ③代替休暇を与えることができる期間
- ④代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日
ただ、代替休暇を取得するか否かは従業員の判断に委ねられ、利用を強制することはできない。1日、半日のいずれかの単位で与える必要があり、1日の所定労働時間が8時間で、代替休暇の時間数が10時間ある場合など2時間分の端数が出る場合は、労使協定を定めることで他の有給休暇と合わせて有給休暇を取得することもできる。
なお、代替休暇を与える期間には定めがあり、法定時間外労働が1ヶ月60時間を超えた月の末日の翌日から2ヶ月間以内の期間となっている。