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マンションの相続税評価見直しで有識者会議 時価評価ベースに方向性検証

2023.03.24

はじめに

相続税におけるマンションの財産評価が市場価格と著しく乖離することを受けて、国税庁は令和5年1月30日、「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」(座長=前川俊一明海大学名誉教授)を開催した。会議では、乖離の実態把握とその要因分析を行い、新たな評価方法を検証していく。

1.市場価格と相続税評価が大きく乖離

有識者会議の開催は、与党が取りまとめた令和5年度税制改正の大綱において、相続税におけるマンションの評価方法の適正化を検討する旨が明記されたことを踏まえたもの。

相続税の財産評価は、時価主義で行うこととされているが、評価方法は実務上、国税庁の財産評価基本通達に従うとされている。

具体的にマンションの評価方法は、以下のように算出する。

マンション(一室)の相続税評価額(自用の場合)=区分所有建物の価額(①)+敷地(敷地権)の価額(②)

  • ①区分所有建物の価額 = 建物の固定資産税評価額(注1)×1.0
  • ②敷地(敷地権)の価額 = 敷地全体の価額(注2)×共有持分(敷地権割合)

注1「建物の固定資産税評価額」は、1棟の建物全体の評価額を専有面積の割合によって按分して各戸の評価額を算定

注2「敷地全体の価額」は、路線価方式又は倍率方式により評価

こうしたマンションの評価方法だが、「相続税評価額」と「市場売買価格」とが大きく乖離する事例も少なくない。1億円で購入したマンションが、相続税評価においては2千万円になる場合もあり得る。そのため、富裕層の間では、相続税の節税のためにタワーマンションを購入するケースも見受けられる。

有識者会議の資料によると、市場価格と相続における区分マンションの評価額について、乖離が2~3倍になるものもある。

マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議

出典:マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議について

そのため、国税当局が鑑定価格等に評価し直して、課税処分するケースも発生している。

最近、注目されたのが令和4年4月19日の最高裁判決だ。市場価格と通達評価の乖離が約4倍にも達し、その乖離を利用した行き過ぎた節税に対して、国税当局は通達による評価を否認し、当局の裁量によって評価する財産評価基本通達6項を拠り所に課税処分を下した。最高裁判決では、6項評価による評価見直しについて当局に軍配を上げている。ただ、最高裁判決では、6項評価をどういった場面で使用するかなどの基準は示されなかった。

6項評価による否認は、めったに発動されるものではないが、有識者会議によると過去10年間で9件の適用事例がある。

マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議

出典:マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議について

こうした不公平性や当局に否認されかねないという予測不可能性を生み出していることから、マンションの財産評価を見直す必要性が叫ばれるようになった。

2.有識者会議での検討事項

有識者会議では、今回の見直しは、評価額と時価の乖離を適切に是正することが目的であって、一部の租税回避行為の防止のみを目的として行うものではないとしている。そして、新たな評価方法については、時価主義のもとあくまで適正な時価評価の観点から見直しを行うこととしている。

有識者会議で具体的に検討すべき事項は、相続税評価額と市場価格との乖離の実態把握及び要因分析の方法の検討、そして、これらの検討を踏まえた乖離の是正方法及び乖離の是正に当たって留意すべき事項について一定の方向性を示す。

有識者会議の資料よると、

  • ・タワーマンションに限らずマンション全体について見直しが必要
  • ・評価方法を見直した結果、評価額が時価を超えないようにする配慮が必要
  • ・統計的手法による分析が有用
  • ・一戸建てとのバランスにも配慮し、急激な評価増にならないようにすべき
  • ・現状、マンション市場は建築資材の価格高騰の影響を受け、値上がりしているので、コロナ前の時期の実態も把握する必要がある

としている。

この有識者会議は、1回だけで終わらず、今後継続的に開かれることが予想され、早い段階(令和5年中)での通達改正を見込んでいる。なお、実際に評価通達が見直される際には、国税庁が行政手続法39条における意見公募手続(パブリックコメント)の規定に基づき、意見募集を行う予定となっている。

詳しい有識者会議の内容については、「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議について」から確認可能だ。

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