国税庁 富裕層ターゲットに調査厳しく 調査に入れば約9割で非違発見
2022.12.12
はじめに
国税庁が掲げる重点課題の一つに「富裕層」があるが、コロナ禍においても、富裕層をターゲットにした調査は、着実に結果が出てきていることがわかった。各国税局が2022年6月までの1年間に実施した所得税の税務調査で、富裕層の申告漏れ額が過去最高の839億円に上ったことが国税庁のまとめでわかった。追徴税額は238億円(同103%増)だった。
1.深度ある調査で1件当たりの追徴税額は2倍増
国税庁は11月24日、令和3事務年度(2021年7月~2022年6月末)の1年間に実施した所得税などの調査結果を発表した。
富裕層に対する調査件数は2,227件で、コロナ禍前の約半数にとどまったが、申告漏れ等の非違件数は1,963件と、調査に入れば約9割近い確率で非違を見つけている。
把握した申告漏れ所得の総額は前年度比72.3%増の839億円で、富裕層対象の統計を始めた2009年度以降で最高額だった。
また、1件当たりの申告漏れ所得金額は、過去最高の3,767万円となっており、所得税の実地調査(特別・一般)全体の1,613万円に比べ2.3倍となっている。1件当たりの追徴税額も前年度と比べ96.5%増の1,067万円と、倍近い金額となっている。(図表1参考)
事務年度(7月1日~翌年6月30日) | 平成21 (2009) |
平成30 (2018) |
令和2 (2020) |
令和3 (2021) |
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項目 | ||||||
調査件数 | 件 | 3,061 | 5,313 | 2,158 | 2,227 | |
申告漏れ等の非違件数 | 件 | 2,513 | 4,517 | 1,843 | 1,963 | |
申告漏れ所得金額 | 億円 | 374 | 763 | 487 | 839 | |
追徴税額 | 億円 | 119 | 203 | 117 | 238 | |
1件当たり | 申告漏れ所得金額 | 万円 | 1,221 | 1,436 | 2,259 | 3,767 |
追徴税額 | 万円 | 387 | 383 | 543 | 1,067 | |
(*黄色の部分はコロナ禍。平成30事務年度はコロナ禍前) | ||||||
参考:国税庁資料(各事務年度の所得税及び消費税調査等の状況) |
2.富裕層の海外投資にも強い関心
経済の国際化に伴い、海外に資産を保有する富裕層も増えており、国税当局では、富裕層の海外投資につても厳しい目を向けている。
コロナ禍ということもあり、令和3事務年度の富裕層の海外取引に関する実地調査件数は、前事務年度517件より7.7%減り477件となっているが、一方で申告漏れ所得金額は、前事務年度150億円から2.5倍の374億円まで増加している。
また、1件当たりの追徴税額も前事務年度879万円から3.4倍の2,953万円と大幅に増加した。この金額は、所得税の実地調査(特別・一般)全体の323万円に比べ9.1倍と高額となっている(図表2参考)。
事務年度(7月1日~翌年6月30日) | 平成30 (2018) |
令和2 (2020) |
令和3 (2021) |
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項目 | |||||
調査件数 | 件 | 859 | 517 | 477 | |
申告漏れ等の非違件数 | 件 | 731 | 453 | 433 | |
申告漏れ所得金額 | 億円 | 328 | 150 | 374 | |
追徴税額 | 億円 | 79 | 45 | 141 | |
1件当たり | 申告漏れ所得金額 | 万円 | 3,819 | 2,904 | 7,836 |
追徴税額 | 万円 | 914 | 879 | 2,953 | |
(*黄色の部分はコロナ禍。平成30事務年度はコロナ禍前) | |||||
参考:国税庁資料(各事務年度の所得税及び消費税調査等の状況) |
国税庁では、「富裕層」に対する調査に関して、コロナ禍で件数こそ控えてきたが、1件当たりに深度ある調査が実施できていることから、今後、さらに力を入れていく構えでいる。