相続開始前3年以内の贈与 ~みなし相続財産の扱いに注意~
2022.04.06
はじめに
相続税対策として生前贈与は王道だが、相続税法には、相続開始前3年以内の贈与は、たとえ贈与税を納めていても、相続財産に取り込み、相続税を再計算する規定がある。いわゆる「生前贈与加算」だ。その生前贈与加算で特に注意すべきなのが「みなし相続財産」だ。
1.相続税の申告でミスしやすい代表格
生前贈与加算とは、被相続人が死亡する前3年以内に相続人が贈与を受けていたら、相続人の相続財産に贈与額を加算するもの。相続税法第19条に、被相続人から「相続」または「遺贈」により、財産を取得した者が「相続開始の前3年以内に当該被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合は、贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算する」と規定されている。
そのため、死亡前3年以内に贈与を受けていても、相続や受贈により財産を取得していなければ、生前贈与加算の対象にはならない。また、相続人であっても財産を相続しなければ生前贈与加算の対象外だ。
生前贈与加算は、相続税の申告でもミスしやすい一つだが、特に注意が必要なのが、いわゆる「みなし相続財産」だ。
みなし相続財産は、相続したものではないのに相続税が課税される財産。代表的なものに死亡保険金や死亡退職金がある。
生命保険においては、契約者及び保険料の支払が被相続人であった契約においては、死亡保険金の受け取りが「関係者」なら、保険契約に基づき保険会社から保険金を受け取る権利を「関係者」が有しているだけなので、取得した保険金は被相続人から承継した財産ではない。しかし、相続税法では、被相続人が保険料を負担しているという事実に着目し、被相続人の財産が保険契約を通じて保険金受取人に承継されたと考える。
また、相続人以外の「関係者」が「保険の契約」を締結していて、その保険料を被相続人が負担していた場合においても、被保険者が被相続人であってもなくても、「遺贈」により財産を取得したとみなされる。
2.みなし相続財産を取得している関係者の確認を
相続税法第3条1項1号及び3号には、「生命保険金や保険契約に関する権利等のうち被相続人が負担した保険料に対応する部分は、相続人以外の者が取得した場合は『遺贈』により取得したものとみなす」と規定されている。
みなし相続財産は、生命保険金と死亡退職金以外にも、終身年金などの保証期間付の定期金や、信託の受益権、特別縁故者への分与財産、公益法人等から受ける利益などが該当する。 例えば、終身年金など定期的に支払われる「定期金」については、被相続人が掛け金や保険料を負担し、関係者が契約者となっているものはみなし相続財産となる。(国民年金や厚生年金は相続税の対象にならない)
また、信託の受益権についても、被相続人が相続財産を遺言で信託していた場合、相続人が受け取る利益がみなし相続財産となる。
被相続人の内縁の妻や献身的に看護・介護してきた相続人以外の人など、いわゆる「特別縁故者」に財産を与える「特別縁故者への分与財産」についても、「特別縁故者に対する相続財産分与の申し立て」を家庭裁判所に行い、それが認められれば、みなし相続財産となる。
このほか、「公益法人から受ける利益」については、公益目的の法人に財産の遺贈があった場合、その法人が施設の利用、余裕金の運用などについて、特定の者に特別の利益を与える法人であれば、その特別の利益を受ける者が、その利益を遺贈によって取得したものとみなされる。
みなし相続財産は民法上の相続財産ではないため、原則、遺産分割協議や遺留分減殺請求の対象にはならない。しかし、相続税の申告に際しては、相続または遺贈により財産を取得した者全員が当分の間、1つの申告書に記載して申告しなければならない。それゆえ、相続税の申告に当たっては、みなし相続財産を取得している関係者がいないかどうか、よく確認する必要がある。