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コロナ禍の相続税調査は厳しさ増す~1件当たりの追徴税額は増加~

2022.03.22

はじめに

コロナ禍の令和2事務年度の相続税の実地調査件数は、5,106件とコロナ禍前の約4割程度まで減った。一方で、ピンポイントで一点集中の調査が増え、1件当たりの追徴税額は943万円(対前事務年度⽐ 147.3%)と、過去10年間で最⾼となっている。コロナ禍の相続税調査の傾向など検証していく。

1.非違を指摘される確率は約9割

コロナ禍前の相続税の実地調査件数は、年間約1万2千~3千件前後だった。これがコロナ禍に入った令和元事務年度(令和元年7月~2年6月)は9,072件まで減り、令和2事務年度(令和2年7月~3年6月)に至っては、5,106件と約4割程度まで減った。

実地調査件数が減少すれば、比例して非違件数も減少してくるが、非違割合は令和元事務年度で85.3%、同2事務年度では87.6%と高い数字となっている。コロナ禍前の非違割合は80~82%。相続税の実地調査となったら、約8割の確率で何らかの指摘を受けると言われてきたが、コロナ禍においては、9割近い確率で非違を指摘されている。

更に、1件当たりの追徴税額においては、コロナ禍前は400万円~500万円だったものが、令和元事務年度には641万円、同2事務年度においては943万円と、コロナ禍前の2倍まで増加した。下記の図表は、10年前との比較だが、非違割合と実地調査1件当たりの追徴税額が際立っているのが一目瞭然だ。

相続税の実地調査
平成23事務年度 令和2事務年度
実地調査件数(件) 13,787 5,106
申告漏れ等の非違件数(件) 11,159 4,475
非違割合(%) 81 88
実地調査1件当たりの追徴税額(万円) 549 943

なぜ、コロナ禍において、深度ある調査が実施されているのかというと、言わずもがな、調査官も在宅勤務が増え、調査先選定に充てる時間が増えたことが一番の理由だ。コロナ禍という状況だけに、調査件数を追えなくなったことから、実地調査に入ったら確実に非違を指摘し、追徴税額も高額な案件に着手する。件数を追えない状況下では、調査官の勤務評定はこうしたことが評価される。だからこそ、コロナ禍の相続税調査は、従来よりも厳しいものとなるのだ。

特に、相続税調査においては、相続税額が大きい案件は調査先に選定されることが多く、調査する資産税担当の調査官は、相続税調査ばかり何年、何十年も手掛けている熟練者ばかりだ。その経験豊かな調査官が十分な準備をして調査に臨むのだから、調査先に選ばれた時点で何か掴まれている。

2.実地調査ができない代わりに「簡易な接触」に積極的

コロナ禍の令和2事務年度の相続税調査のもう一つのポイントは、「簡易な接触」を積極的に行った点。所得税や法人税の調査と同様に、文書や電話、来署依頼による面接などで申告漏れや計算誤りなどを把握し、申告内容を是正する。

令和2事務年度には、1万3,634件実施され、その結果、申告漏れ等の非違があったものは3,133件、申告漏れ課税価格は560億円にもなった。追徴税額も本税と加算税併せて65億円で、一人当たりの追徴税額も47万円となっている。

相続税の簡易な接触の事情の推移

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資産税畑の国税OB税理士の話によると、「コロナ禍において実地調査を行うのは、高額な追徴税額になると想定される案件で、それ以外で疑問のあるものは『簡易な接触』という使い分けになった」と指摘する。

今後、コロナ禍前のような、年間1万件を超える相続税調査が行われるかは分からないが、資産税部門の調査官は人数に限りがあるため、効率良い相続税調査を行っていくという点では、金額の大きい相続案件は『実地調査』、金額が小さい非違案件は、『簡易な接触』で件数を追っていく可能性が高い。そのため、税務署から相続税調査の事前通知が来たら、これまでとは比較にならない深度ある調査が行われると考えたほうがよさそうだ。

図表の出典:国税庁 令和2事務年度における相続税の調査等の状況

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