消費税の調査体制を強化 ~アフターコロナは還付申告のチェック厳しく~
2022.01.27
はじめに
政府は令和4年度一般会計税収を65兆2,350億円と見込んでおり、そのうち消費税は21兆5,730億円と見積もっている。今や所得税を抜き、わが国第一の基幹税収となった消費税。国税当局では、調査体制を強化するなど、消費税調査にさらに力を入れていく。コロナ禍で調査件数は減ったものの、消費税調査1件当たりの追徴税額は前年度比で約3倍も増えている。国税当局は、今後、どういった消費税調査を展開していくのだろうか。
1.調査1件当たりの追徴税額が2倍に
国税庁からこのほど、令和2事務年度(令和2年7月~令和3年6月)の消費税調査の状況が公表された。それによると法人、個人ともにコロナ禍の影響で調査件数は前事務年度を大幅に減ったものの、調査1件当たりの追徴税額は前事務年度より大幅に増えている。これは、まん延防止等重点措置や緊急事態宣言下にあって、実地調査を実施できなかった中、調査選定に力を入れられた結果、深度ある調査がおこなわれたものと推察される。
例えば、法人消費税の実地調査件数は、前事務年度の7万4千件から約7割減り2万5千件だったが、調査1件当たりの追徴税額は前事務年度の97万9千円から297万2千円と3倍超増えた。還付申告法人に対する調査件数も前事務年度の5,838件から半分近く減り3,066件となったものの、調査1件当たりの追徴税額は前事務年度の364万1千円から714万3千円と約2倍増となった。
<法人消費税の実地調査の状況>
出典:国税庁HP『令和2事務年度 法人税等の調査事績の概要』
個人事業者に対する実地調査件数も、前事務年度の2万3,837件から9,301件と約6割減り、着眼調査も同6,899件から1,775件と激減した。一方で1件当たりの追徴税額は、本税で92万円から113万円、加算税で20万円から24万円と前事務年度と比較して増加している。着眼調査においても前事務年度と比べ本税で19万円から24万円、加算税で4万円から6万円と増加しており、深度ある調査が実施されていることがわかる。
2.消費税調査部門を強化
実は、国税当局はこの数年、消費税調査に力を入れており、組織・調査改革にも取り組んでいる。消費税調査というと、法人税などとの同時調査が思い浮かぶが、この数年は、消費税還付案件については、消費税調査の専門部隊が税務署の管轄を越えて広域調査を実施している。例えば、東京国税局管内であれば、東京上野、渋谷、新宿に「消費税専門官」を配置し、横断的な調査で実績をあげている。
税率が10%になると、不正還付事案も増加しており、国税当局では効率的に不正還付を見つけていく体制作りに取り組んできたのだ。
国税庁が令和3年12月24日に公表した「令和4年度の機構改革」では、軽減税率制度、消費税不正還付などへの対策として、国税局に消費税部門の新たなポジションを設けたほか、税務署の「消費税専門官」を増員している。
国税局に設けられる新たなポストとして「消費税専門官(仮称)」を関東信越、東京、名古屋、大阪、福岡の各局に1名配置。消費税の不正還付などの情報収集から調査先選定などの審理業務のほか、増員される税務署の「消費税専門官」をサポートしていく。つまり、国税局の「消費税専門官(仮称)」が司令塔となり、大口、悪質な不正還付事案を見つけ出し、署の消費税専門官が具体的な調査を実施していく格好だ。
3.高額な還付申告には厳しいチェック
消費税の還付申告に関しては、還付金額にもよるが一般的には署の還付処理担当者から文書照会などがおこなわれる。特に、初回の還付申告または高額還付申告については、ほぼ納税者に対して文書照会を行い、必要があれば消費税還付額に対する調査に移行される。この場合は、法人税等と同時に調査をおこなう場合と消費税の還付金額に対してのみの調査に分かれる。
期間特例の適用を受けている場合は、基本的に輸出取引が多く、通常還付申告となり、照会文書の回答において提出する書類等に特に問題がなければ還付処理がおこなわれる。ただ、臨場しなければ解明できないような事情が出てきた場合には実地調査がおこなわれ、元国税調査官によれば、「こうしたケースでは消費税の還付金額が、調査終了時点まで還付されないケースが多い」と言う。最近の消費税還付事案の調査では、文書照会もなく調査依頼してくることも少なからずあり、不正還付が想定されるものには、単独調査が行われることもあると言う。
そのため、高額な還付申告をしている場合は、還付金額の処理日によっては納税者の事業資金がショートすることもあるため、還付金の還付処理はどうなるかを調査官に確認することが重要になる。
いずれにしても、還付申告に関しては、一般の消費税調査とは別に、厳しくチェックされることも多くなり、国税当局では「不正還付については一層厳しく調査していく」としている。