令和4年度税制改正大綱 税理士制度の見直しポイントを解説
2022.01.20
はじめに
令和4年度税制改正に、税理士制度の見直しとして「税理士の業務の電子化等の推進 」や「税理士事務所の該当性の判定基準の見直し」「税務代理の範囲の明確化」など13項目が盛り込まれた。デジタル化時代に対応した税理士及び税理士法人の目的が明確にされたほか、税理士処分関係について大幅な見直しが行われることになった。
1.税理士業務にICT化対応
大綱には、ほぼ日本税理士会連合会(日税連)の要求が盛り込まれたが、その幹として位置づけられているのが「税理士業務のICT化の推進」だ。努力義務とはいうものの、デジタル化社会への対応として税理士業界にとっては大きな意味を持ってこよう。
具体的には、税理士業務に電磁的方法が含まれることを明示し、税理士が納税者の利便性のために電子申告・納税、電子帳簿、マイナポータルの利活用など税理士の業務のICT(インフォメーション・コミュニケーション・テクノロジー)化の推進に努めるとしている。
2.税理士事務所の判定基準を見直し
税理士事務所の該当性の判定基準が見直される。加速化する税理士業務のICT化や働き方の多様化が進む中、2ヶ所事務所の判断が足枷になることも少なくなかった。そこで、事務所定義の解釈が明示された基本通達が見直される。
3.税務調査時等の代理範囲明確化
税務調査シーンにおいては、税務官公署からの処分通知書を納税者等に代わって受領することや、調査結果内容の通知を納税者等に代わって受領すること(現在は同意書の提出が必要)があるが、これらについて、税理士法施行規則における税務代理権限証書の様式を改正し、委任状・同意書等の別途書面を要せず、税務代理権限証書1枚で代理受領することが可能となるように見直される。併せて、一般の民法上の代理とされている納税証明書を納税者に代わって受領することも、利便に資する観点から、税務代理権限証書の中で表示できるようになる。
4.税理士試験の受験資格緩和
税理士試験制度については、受験者数が年々減少していることや、受験生の高齢化が進んでいることから、令和5年4月1日から受験資格が緩和される。
改正内容は、早い段階での受験が可能となるよう会計学の受験資格を不要とするほか、現行では、大学において法律学又は経済学に属する科目を修める必要があるが、これを社会科学に属する科目に拡充する。
5.税理士法人の業務範囲拡大
税理士法人制度が見直され、税理士として当然に行う公益的業務などの業務について税理士法人の業務範囲に加える。
このほか、税理士法人の社員資格についても見直される。
現在、税理士法48条の4(社員の資格)2項1号において、業務停止期間中の者は社員資格を有しないこととされ、社員税理士が業務停止処分を受けた場合、社員資格を喪失し、当該税理士法人を脱退しなければならないこととされている。一方、税理士法48条の17(法定脱退)には、業務停止処分を受けた場合の記載がないため、脱退事由に該当せず、脱退する必要はないのではないかとの解釈があり、これにより脱退を免れてしまう事例も生じていた。そこで、このような誤解が生じないように、業務停止処分は社員税理士の法定脱退事由であることが明確化される。
6.懲戒処分逃れの「自主廃業」にメス
このほか、日税連の要望にはなかったものだが「懲戒処分を受けるべきであったことについての決定制度の創設等」「税理士法に違反する行為又は事実に関する調査の見直し」が盛り込まれた。
以下、大綱に盛り込まれた「懲戒処分を受けるべきであったことについての決定制度の創設等」の内容だ。
- ①財務大臣は、税理士であった者につき税理士であった期間内に懲戒処分の対象となる行為又は事実があると認めたときは、その税理士であった者が懲戒処分を受けるべきであったことについて決定をすることができることとする。この場合において、財務大臣は、その税理士であった者が受けるべきであった懲戒処分の種類(その懲戒処分が税理士業務の停止の処分である場合には、懲戒処分の種類及び税理士業務の停止をすべき期間)を明らかにしなければならないこととする。
- ②税理士の欠格条項に、上記①により税理士業務の禁止の懲戒処分を受けるべきであったことについて決定を受けた者で、その決定を受けた日から3年を経過しないものを加える。
- ③税理士の登録拒否事由に、上記①により税理士業務の停止の懲戒処分を受けるべきであったことについて決定を受けた者で、上記①により明らかにされた税理士業務の停止をすべき期間を経過しないものを加える。
(注)財務大臣は、上記の決定をしたときは、遅滞なくその旨を官報をもって公告しなければならない。
(注)上記の改正は、令和5年4月1日以後にした違反行為等について適用する。