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令和3年 年末調整の電子化に取り組むなら高性能な民間ソフトが現実的

2021.10.06

はじめに

国税庁では現在、年末調整の電子化を加速させている。令和3年の年末調整からは、年末調整電子化に伴う税務署への事前申告が廃止されるほか、各種申告書の押印義務がなくなる。年末調整の電子化が進めば、事業者が年末調整で使うエネルギーはかなり軽減される。そのため、国税庁はホームページで無料ソフトを提供するなどしているが、使い勝手などの問題からまだ事業者に浸透していない。

しかしながら年末調整の電子化が実現できると、控除申告書を記載する従業員の手間が減るだけでなく、年末調整処理を実施する事業者の担当者や税理士にとっても、控除申告書(紙)から年末調整をおこなうシステムへの手入力が省けるなど、その効果は絶大となる。

そこで、年末調整の電子化を「今年こそ!」と考えている事業者、及び税理士向けに、年末調整手続の電子化に必要な準備について紹介する。

1.10月から年調ソフトの提供が開始

令和2年分の年末調整から、従業員(給与所得者)の生命保険料控除、地震保険料控除、住宅借入金等特別控除に係る控除証明書等について、勤務先への電子データ提供が可能となり、年末調整手続の電子化が進められている。

そのため、国税庁は年末調整の電子化推進の一環として、簡便・正確に控除申告書を作成できる「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(年調ソフト)」のPC用ソフト、スマートフォン用アプリを令和2年10月からホームページで無償提供している。令和3年分の年調ソフトは、令和3年10月から提供が開始された。

年調ソフトには、

  • ①保険会社等から交付を受けた控除証明書等データをインポートすることにより、控除申告書の所定の項目に控除証明書等データの内容を自動入力する機能
  • ②保険料控除等の控除額を自動計算し、控除申告書を作成する機能
  • ③作成した控除申告書をデータ出力する機能

があり、①の機能については、マイナポータルと連携し、必要な控除証明書等データを一括取得して自動入力することにより、控除申告書データを作成すること(マイナポータル連携)も可能になるとしている。

2.令和3年からは「住宅ローン控除申告書」も対象に

令和3年の年末調整では、昨年まで唯一電子化の対象外だった「住宅ローン控除申告書」も対象に含まれることが朗報だ。提出に際しては、住宅ローン控除申告書への押印は廃止される。

<年末調整関係書類の電子データによる提供の対象となる書類>

〔年末調整申告書関係〕

  • ① 扶養控除等申告書
  • ② 配偶者控除等申告書
  • ③ 保険料控除申告書
  • ④ 住宅ローン控除申告書
  • ⑤ 基礎控除申告書
  • ⑥ 所得金額調整控除申告書

〔控除証明書等関係〕

  • ⑦ 保険料控除証明書(生命保険料(新・旧)、個人年金保険料(新・旧)、介護医療保険料及び地震保険料に限ります。)
  • ⑧ 住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除証明書
  • ⑨ 年末残高等証明書

ただし、電子化されるのは「住宅ローン控除申告書」のみ。マイナポータル対応なら年調ソフトでも住宅ローン控除証明書の電子化に対応しているが、マイナポータル対応でなければ「住宅ローン控除証明書」については原本の提出が必要だ。

この点、国税庁のQ&A(問3-12)では、以下の通り回答している。

「年末調整において住宅ローン控除を受ける場合には、居住開始年分の確定申告において住宅ローン控除の適用を受ける必要があります。住宅ローン控除証明書を電子データで取得するためには、居住開始年分の確定申告書について、e-Taxにより提出すること、及び提出の際に翌年分以降の住宅ローン控除証明書については、e-Taxによる電子データでの交付を希望することが必要となります。※上記の手続を行っていただいた方については、翌年以降、住宅ローン控除証明書データをe-Taxのメッセージボックスを通じて取得することができるようになります。また、住宅ローン控除証明書データについては、マイナポータル連携により取得することもできます。なお、居住年が平成30年以前の場合には、勤務先に電子データにより提供することはできませんのでご留意ください。

※ 当初の確定申告の際にe-Taxによる電子データでの交付を希望していなかった場合でも、所轄の税務署長あて「年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除関係書類の交付申請書」を提出することにより、電子交付を受けることが可能となる場合があります」

3.「税務行政の将来像」にみる年調の電子化

政府は今年9月1日に設置したデジタル庁を司令塔に、行政手続き全体の電子化を進めている。国税庁においても、「税務行政の将来像」(平成29年6月公表)を改定し、今年6月11日、「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2.0-」を発表した。

この中でも、年末調整の電子化は必須事項であり、事業者としては遅かれ早かれ対応していくことが迫られるだろう。

事業者においても、年末調整の電子化が実現できれば、業務効率化につながるほか、従業員においても会社へ提出する年末調整の控除申告書の電子データや書面を簡単に作成することができるようになるなどのメリットがある。

4.進むソフト改修、使い勝手はいまいちとの評価も

しかし、国税庁が提供する年調ソフトは、無料なのは魅力的だが、使い勝手などを含めまだ改善すべき要素が多々あり、事業者が年末調整の電子化に取り組むに当たっては、操作性などおいて高いハードルになる可能性がある。

国税庁では、改正や昨年からの問題点などに対応するため、年調ソフトの改修を進めているが、使い勝手についての評価はいまだ低い。「入力項目が多くてわかりにくい」「従来通り用紙での提出の方が良い」との声も多く、従業員に年調ソフトを使用してもらうためには事業者が独自の説明資料を作成するなどのサポートが必要になるだろう。

事業者において年末調整業務は、税額計算や税務署や市区町村への提出書類作成業務など、手のかかる業務である。一番の問題となるのは「申告データの収集」だ。年調ソフトでは、従業員任せでデータを作成・提出させることになり、事業者側で進捗の管理等はおこなえないことから、データを1件ずつ収集する手間は従来と変わらない。この点、民間サービスには、データ作成の依頼から進捗の管理や、事業者側の確認実績の管理までできるものがあり、かつ、サポートもしっかりしているので安心感がある。

また、操作性の問題だけでなく、年末調整の電子データ化を推進するのであれば、その後の業務へのデータ活用を総合的に考えていくことも重要だ。

本気で年末調整の電子化に挑むなら、従業員への負担や使い勝手、収集・保存した電子データを有効活用することなども念頭に、高性能な民間サービスの利用を考えるほうが現実的かもしれない。

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