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従業員の横領行為で重加算税の対象になるケースは?

2021.08.25

はじめに

税務調査で社員の横領行為が発覚するケースも少なくないが、取締役なら不正行為が法人の行為と同一視され、不正行為により過少申告等の結果が生じていれば、重加算税が賦課される。では従業員の場合はどうなのか?よくあるのは、経理職員が外注費などとして経理を操作し、横領しているケース。単なる従業員に過ぎなければ、法人の行為と同一視できるのか、実務的にどう判断することになるのだろうか。

1.役員の「隠ぺい又は仮装」行為には重加算税が賦課

税務調査で、「隠ぺい又は仮装」行為が判明すると、期限内の申告税額に加え、過少申告加算税に代えて重加算税(35%、過去5年以内に無申告加算税、重加算税の前歴があるときは45%)が賦課される。国税通則法68条では、納税者が課税標準等または税額等の計算の基礎となる事実の全部または一部を隠ぺい・仮装し、隠ぺい・仮装したところに基づいて、過少申告または無申告となっている場合には、重加算税を賦課するとしている。

そのため、基本的には、納税者である法人と同一視できる代表者や役員が、隠ぺい又は仮装した場合に重加算税が賦課されると考えられ、判例でも同様の考え方となっている。

では、従業員の横領などの不正行為に関してはどうなのだろうか。

2.平成16年の「さいたま地裁判決」

平成16年12月1日のさいたま地裁判決では、「従業員を自己の手足として経済活動を行っている法人においては、その者の行為が納税者たる法人の行為と認められるような場合には、隠ぺい・仮装行為が代表者の知らない間に従業員の行為によって行われた場合であっても、その隠ぺい又は仮装に基づき過少申告などの結果が発生していれば重加算税を課すことができると解するのが相当である」との判決が下され、これはその後の上訴における判断においても維持された。

つまり、代表者や役員以外の、従業員が隠ぺい・仮装を行ったときであっても、それを納税者自身の行為と同一視できる場合には、重加算税を賦課することが、解釈によって認められているのだ。

3.従業員の行為が法人の行為と同一視されるには?

では、従業員の行為が法人の行為と同一視できると推察できるのは、どういったケースなのか。国税OB税理士の話を総合すると、「現職時代、税務調査時のポイントとして重視していたのが、従業員であっても法人の主要な業務を任されていること。また、法人が注意していれば、通常、長期にわたる不正や多額な不正などを容易に発見でき、不正行為を管理監督しない結果、これを見過ごし、過少納付が生じたという点。この二つを満たしていれば、法人の行為と同一視することができる」としている。

ただ、管理監督責任の不履行については、国税当局も事実関係を立証することが困難である場合が多いので、不正行為をした経理がどの範囲までの業務を任され、法人がどのようなチェック体制を取っていたのかなど、国税当局では証拠化していくことになる。この点、国税OB税理士の話では、「当該従業員に業務を任せきりにしていたこと、法人が何らかの管理・監督をしないまま放置していたことを、質問応答記録書を作成しながら証拠化していく」としている。

4.従業員の横領が重加算税の対象にならないケース

一方で、従業員の横領が重加算税の対象にならないこともある。採決事例(平成23年7月6日)では、一般職の従業員が、資材課係長として1年間勤務後、平成11年3月に別工場資材課の一般職に異動。その後、退職時までこの資材課に勤務したのだが、平成11年11月頃から同20年12月まで不正行為を行った(同20年12月に依願退職)。

不正が発覚したのは税務調査のとき。税務署では、従業員の行為でも重加算税の対象となるとしたことから、国税不服審判所で争われることに。この争いでは、①不正をした従業員が資材課の一般職であったこと、②不正が行われていた期間、法人においては材料の発注、検収などの一担当だった、③役員に就任していたことはない、④重要な地位、権限を与えられたこともない、⑤経理課に勤務していたこともないほか、重要な経理の帳簿の作成を任されていたこともない、⑥独断で行なったことで、会社の認識の下に行われたものでない-などの事実認定から、不正をした従業員の行為は、法人の行為と同一視することはできないとされた。

5.ポイントは「現場の一担当者レベルでの行為なのか?」

従業員の横領が法人の行為と同一視できるかの判断ポイントは、簡単に言ってしまえば「隠ぺい、仮想を行なった人はどの立場で、何の仕事をしていたか」「それが一担当者レベルの話なのか否か」。現場の単なる一担当者レベルでの行為であれば、重加算税の対象にはならない可能性が高い。とはいうものの、現実問題は複雑だ。重加算税が賦課されたら、法人は「本税×35%」(過去5年内に、無申告加算税<更正・決定予知によるものに限る>又は重加算税を課されたことがあるときは、 10%加算され45%)のペナルティを課せられるほか、延滞税の計算対象外の期間がなくなる。

だからこそ、従業員の不正行為に関しては、何としてでも重加算税は防ぎたい。どういった行為が法人と同一視されるのか、ポイントを抑えておくことが重要になってくる。

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