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2021年中小企業白書に見る中小企業の事業承継の実態

2021.06.25

はじめに

現在、中小企業の事業承継は社会的な大きな課題だ。このほど発表された2021年版中小企業白書では、事業承継実施企業の成長率や、新型コロナウイルス感染症の流行を受けて、経営者の事業承継に対する考え方に変化があったのかなどについて分析している。

1.コロナで過去最大の廃業・解散件数

2021年中小企業白書によると、廃業・解散件数は、2019年まで4万件台の半ばで推移していたが、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響などにより、調査開始以降最多となる4万9,698件となったとしている。

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休廃業・解散企業を選択する代表者年齢、2020年は「70 歳代」が最も多く 41.8%で、70 歳代以上が全体に占める割合が年々増加傾向し、2020年は 59.8%となっている。

白書では、経営者自身が事業を継続する意向がないことから「廃業」を選択することもあり、そうした企業の中には、一定程度の業績を上げながら休廃業・解散に至ることも少なくなく、約6割は当期純利益が黒字。貴重な経営資源を散逸させないためにも、意欲ある次世代の経営者や第三者などに事業を引き継ぐ取組が重要と指摘している。

2.後継者の優先順位ナンバーワンは「親族」

白書によると、事業承継の際の後継者選定の優先順位について、最優先1位としては「親族」が61.1%で、次いで「役員、従業員」の25%としている。

優先順位2位としては、「役員、従業員」が最も高く54.2%で、次いで「事業譲渡や売却」の17%、「外部招聘」の13%となっている。

優先順位3位では、「事業譲渡や売却」が42.6%、「外部招へい」が26.6%と、この2つで約7割近くを占めるとしている。

このことから、多くの経営者はまず「親族」を第1候補として検討し、次いで「役員、従業員」、そして「事業譲渡や売却」、「外部招へい」の順に検討している様子がうかがえる。

ただし、白書では、近年同族承継の割合が 34%程度であることを考慮すると、必ずしも希望通りに親族への承継がかなわないケースも増えてきていると考えられ、事業継続の意志がある場合は早めに後継候補者の意思確認を進めていくことで、さまざまな選択肢を検討することが可能になるとしている。

事業承継までの期間についてだが、同族承継の場合は「5年超」の割合が最も高く43.9%で、「外部招へい・その他」の場合は「半年未満」が 45.5%と最も高くなっており、承継方法によって事業承継に向けた準備に充てられる期間に差があることが分かる。

興味深いのが、事業承継した経営者の経営方針についてだが、同族承継の場合は「先代経営者の取組の継承・強化」とする割合が高い一方、内部昇格や「外部招へい・その他」の場合は「新たな取組に積極的に挑戦」とする割合が高いこととしている。

事業承継後、5年程度の間に後継者がどのようなことに意識的に取り組んだかについては、「新たな販路の開拓」が44.9%の最も多く、次いで、「経営理念の再構築」や「経営を補佐する人材の育成」が3割を超えている。

3.事業承継は企業のパフォーマンスを向上させる

白書では、事業承継が企業パフォーマンスに与える影響について、事業承継実施企業の承継後5年間の売上高成長率(同業種平均値との差分)から分析し、事業承継の1年後が最も高いものの、2年目から5年目までも一貫して同業種平均値を上回っており、事業承継実施企業が同業種平均値よりも高い成長率で推移しているとしている。

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事業承継時の後継者の年齢別に成長率を分析してみると、年齢にかかわらず事業承継後の成長率が同業種平均値を上回っているとしている。特に承継時の年齢が39歳以下においては、成長率が高い傾向にあるとしている。

4.コロナ感染を機に経営者の意識に異変

新型コロナウイルス感染症の流行が企業の経営環境に大きな影響を及ぼしているが、事業承継においても、16.1%の経営者の心境に変化があったとしている。具体的には、「事業承継の時期を延期したい」が 32.5%と最も高く、次いで「事業承継の時期を前倒したい」が 27.4%となっている。感染症流行を受けて、一部の企業では、事業承継時期を前後にずらすなど、承継計画の転換に迫られている様子がうかがえる。

事業承継の考え方や方向性についても変化があり、白書では、「事業承継に向け、譲渡・売却・統合(M&A)を検討」「事業承継したいが、候補者なし」とする経営者は、「心境に変化があった」と回答する割合が高いとしている。

5.事業承継の選択肢として身近な存在になったM&A

事業承継の選択肢として、中小企業でもM&Aが身近な存在になってきている。以下は、マッチングの支援を行う専門機関「事業引継ぎ支援センター」の相談社数と成約件数の推移だ。相談社数・成約件数ともに近年増加傾向で、中小企業においてもM&A件数が増加していることが分かる。

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近年中小企業の買い手としてのM&A実施意向が高まっており、成長のための身近な手段になりつつある。白書では、M&Aを対等合併的な場合は、ほとんどが「売上・市場シェアの拡大」を目的としている一方で、吸収合併的(垂直統合)の場合は「新事業展開・異業種への参入」や「人材の獲得」、「技術・ノウハウの獲得」の割合も高いとしている。

買い手としてM&Aを実施する際に重視する確認事項については、「事業の成長性や持続性」が最も高く6割を超えており、「直近の売上、利益」、「借入等の負債状況」と続いている。

いずれにしても、中小企業においては、承継前にしても承継後にしても、「承継」という行為がポイントになり、経営にプラスに働くことが白書では示されている。中小企業に関与する会計事務所としては、こうしたデータを参考にしながら、顧問先防衛のため積極的に事業承継をサポートしていきたい。

図の出典:2021年版『中小企業白書』(中小企業庁)

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