令和3年度税制改正 新しい「所得拡大促進税制」の見直しに迫る
2021.03.22
はじめに
中小企業向けの賃上げ税制である「所得拡大促進税制」が、令和3年度税制改正で見直された。従来の「所得拡大促進税制」の適用要件を一部見直し・簡素化したうえで、適用期限を令和3年4月1日から同5年3月31日まで2年間延長したもの。新型コロナウイルスの影響で経済が冷え込む中、政府としては、雇用を増やし社員の給与を増やした企業に対して、税の優遇措置を設け下支えしていく狙いがある。
会計事務所のクライアントにも影響してくる見直しだけに、ポイントを押さえておきたい。
1.従来の所得拡大促進税制の中身
所得拡大促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等が、一定の要件を満たした上で、継続雇用している社員等に支給する給与を前年度より増やした場合に、増やした給与の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できるもの。原則、増やした給与等が(雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額)前年度比で1.5%以上なら、年収の増えた分の15%を税額控除ができる。
たとえば、昨年度の支給した年収が600万円で、今年度の年収が720万円なら、差額の120万円(720万円−600万円)×15%=18万円が通常の税額控除額となる。
ただし、税額控除の額には上限があり、通常の場合も上乗せの場合も法人税額の20%までとなっている。
2.令和3年度税制改正で見直されたポイント
今回の所得拡大促進税制の見直しでは、適用要件の"継続雇用"している社員という部分がなくなり、新規に雇用した社員も含めた、社員全体の年収総額で判定をすることなった。
<適用要件>
従来(平成30年4月1日から令和3年3月31日までに開始する各事業年度)
- ① 雇用者給与等支給額が前期を上回ること
- ② 継続雇用者給与等支給額が前期比1.5%以上増加
税額控除:雇用者給与等支給額の前期からの増額の15%
↓
見直し(令和3年4月1日から令和5年3月31日までに開始する各事業年度)
- ① 雇用者給与等支給額が前期比1.5%以上増加
税額控除:変更なし
ちなみに、継続雇用の要件は、
- 1、前事業年度及び適用年度の全ての月分の給与等の支給を受けた国内雇用者である
- 2、前事業年度及び適用年度の全ての期間において雇用保険の一般被保険者である
- 3、前事業年度及び適用年度の全てまたは一部の期間において高齢者雇用安定法に定める継続雇用制度の対象となっていない
とされている。
つまり、従来の要件では、継続雇用者は前事業年度、今事業年度共に在籍していたものになるため、2年(24カ月)在籍していた社員の給与が増えているかどうかで判断し、前事業年度、適用事業年度の中途で採用した人は対象外になってしまっていたわけだ。
これまで、この「継続雇用者」がネックとなり、所得拡大促進税制の適用を諦めていた企業も少なくない。適用が受けられる可能性があれば、関与税理士としては積極的にサポートしたいところだ。
3.「25%」の税額控除の上乗せ要件も見直し
また、今回の見直しでは、給与等の増加額に対して25%の税額控除ができる、「上乗せの要件」も見直され、適用期限が令和5年3月31日までの2年間延長された。
【従来の上乗せ要件】
- ・適用年度の継続雇用者給与等支給額が前期比2.5%以上増加
- ・下記のいずれかを満たす場合
- イ):適用年度の教育訓練費が前期比10%以上増加
- ロ):適用年度終了の日までに、中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受け、その計画に従って、経営力向上が確実に行われたものとして証明がされたこと
【改正後の上乗せ要件】
- ・適用年度の雇用者給与等支給額が前期比2.5%以上増加
- ・下記のいずれかを満たす場合
- イ):適用年度の教育訓練費が前期比10%以上増加
- ロ):適用年度終了の日までに、中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受け、その計画に従って、経営力向上が確実に行われたものとして証明がされたこと
つまり、今後は上乗せの適用要件も「継続雇用者」の給与等支給額の増加から、「雇用者」の給与等支給額の増加に判定基準が簡素化される。今までは、2年間在籍している人をアナログで把握する必要があったが、今後は単純に給与支給額だけで判断できるため、実務的にもかなり楽になる。
4.雇用調整助成金等の取扱いについて
このほか、適用要件の判定及び控除税額の計算に使用される給与等の支給額から控除する「給与等に充てるため他の者から支払いを受ける金額」についての範囲の明確化された。それによると、
- 1、賃上げ要件を判定する場合には、雇用調整助成金及びこれに類するものの額を控除しないこととする。
- 2、税額控除率を乗ずる基礎となる雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額は、雇用調整助成金及びこれに類するものの額を控除して計算した金額を上限とする。
つまり、雇用調整助成金およびこれに類するものは、改正前の取扱いでは給与等支給額から控除することになっていたが、改正後は、適用要件の判定において控除しないものとされた。ただし、税額控除率を乗ずる基礎となる雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額については、雇用調整助成金およびこれに類するものの額を控除して計算した額が上限となるとされた。